私がバイクの免許を取ろうと思った、直接にして最大のきっかけは、26の春に会社を辞めたことだった。会社を辞めると定期的な収入の代わりに、膨大な自由時間が手に入る。その時間をどう使おう? 季節は何を始めるにも最適な春。働いていると、出来ないことをやりたい。ちょうど同時期に会社を辞めた友達は、合宿で車の免許を取ると言う。免許はIDの代わりにもなるし、この年で免許を持っていないのはちょっと恥ずかしい。そう、免許、いいね。でも私はバイクね。
 ここで、何故四輪ではなく二輪かという理由だが、それはとても単純。車は酔う。「運転する人は酔わないんだよー」と友達に言われたが、私には「車=酔う」というイメージが強すぎてちょっとダメ。それに、狭くて障害物だらけのこの都心。電柱の2、3本ぐらい、どうやってぶつけないで走るのさ。車よりバイクなのだ。
 何か新しいことを始めるとき、私は「勢い」と「やりたい気持ち」を大事にしている。その波を逃すと、また次のビッグウェーブがやって来ない限り、一生棚上げで終わりそうな気がするから。ということで思い立った翌日、ほとんど下調べもせずにネットで見つけた近くの自動車学校に入校手続きを済ませた。

 ここで、免許を取る際、一つだけ最高に注意しなければならないことがある。それは、せめて公安委員会認定の学校を選ぶのが無難だと言うこと。非公認の学校を選んでしまうと、学科試験の他に、技能試験をも試験場で受けなければならないのだが、この俗に「一発」と呼ばれる試験が恐ろしく難しいのだ。そんなシビアな現実など全く知らず、お得な料金につられ私が選んだ学校は非公認。「根性あるねー!」と、友達に言われたその意味が、実技試験を受ける段階に達したときようやく理解できた。とにかく、初心者は非公認校を選ばない方がいい。
 
 初めてバイクに乗った感想は、面白いというより重かった。そして難しかった。クラッチ? ギア? 前輪と後輪ブレーキが分かれてるって? ニュートラルって? とにかく分からないことだらけ。ブレーキングの度にバイクを倒し、ヒザはアザだらけ。坂道発進でコケる、右左折でコケる、急制動でコケる、クランクでコケる。おかげで引き起こしは早くなった。
 そのうち普通に乗れるようになり、ついに鮫洲運転免許試験場で一発を受ける日がやって来た。
 試験場の空気は、いつも異常なほど緊張で張り詰めていた。毎回10〜20名の受験者が一発に挑み、合格者は2〜3名程度。緊張を克服できても、細かい減点が重なり完走もままならない状態が続いた。おまけに夏休みで試験場が混み、一度落ちると次の予約は10日先。想像以上に合格のハードルは高く、連続して受けることもできない。これには本当に、まいった。

 8回の一発を経て、ようやく免許を手に。と言いたいところだけど、実際は8回の一発を経て散々悩んだ挙句、「もうこれ以上の走りは出来ません」と一発合格を諦めた。これは本当に悔しく無念だったが、8回目、落とされた理由に納得できず、一発合格への気持ちが、そこで途切れてしまったのだ。あと1回で取れるという保障もない。そこで私は早急かつ確実に免許がとれる道を選んだ。8泊9日合宿だ(今度はもちろん公認校)。

 栃木県の某合宿所は10代の青春まっさかりボーイズがわんさかいて、ちょっと面白かった。「姉さんレディース?」とつっこまれたりもしたが、年が一回り違うせいか、何を言われても可愛いと思えた。思いっきりツッパってる子も、話してみればやはり10代だし、何より顔に幼さが残っていた。
 事前に非公認校と鮫洲試験場に投資した分、こちらでは驚くほどすんなり免許が取れた。人の倍走りこんでいたので当然と言えば当然だ。それより、あまりにあっさり免許が取れてしまったことには驚いた。もちろん卒業検定という実技試験はあるのだが、この採点基準が鮫洲とは比べものにならないほどゆるい。この日の走りを鮫洲でやって、果たして受かったかどうか。とはいえ、そんなことはどうでも良かった。経験値はこれから外で積めばいい。
 人の倍、お金と時間を取得した免許だけに、バイクへの思い入れは強いかもしれない。


 自らの不勉強さ(と運動神経のなさ)で本当に苦労して取得した普通自動二輪免許。取ったら直ぐにバイクを買おうと決めていた。メーカーはやっぱりホンダ。最初は250ccでVTRかHORNETのどちらかで迷っていたけれど、400ccまでの免許を取ったんだ。乗るなら限度ギリギリ、400ccに乗るべしと言ってくれたのはさて誰だったかな。全くその通りなので、400ccを買うことに決めた。
 ホンダで400ccと言えば、教習所でも乗っていたアレしかない。ということで、迷わずCB400SFの白いバイクを探した。上野のバイク街で色んなバイクを見たが、結局メーカー系ショップで購入するのが一番安心だと思い、ホンダドリーム世田谷へ。そこで出会ったのがエンジンガード付の白いVTEC2。まだ2000`も走っていない新古車だった。決して安くはなかったけれど、即決して購入。納車までの時間が、本当に待ち遠しくて仕方なかった。ちなみに何故白を選んだかというと、視認性が高く、闇に溶けにくいから。

 初めて公道を走ったときの緊張感や、鳥肌が立つほど嬉しかった気持ちは今でも覚えている。納車翌日、狭いガレージで転回中に早速たおしてしまい、ショックで呆然としたこと。道で倒してしまったとき、直ぐに駆けつけて助けてくれた郵便局員のお兄さんのこと。間違えて高速に乗ってしまったとき、料金所のおじさんが心配顔で「気を付けるんだよ」と言ってくれたこと。それから、ツーリングで出会った人々、作った思い出の数々。バイクは単に乗るだけのものじゃなくて、そこから始まるもの、広がるものこそが素晴らしいと、外を走ってようやく分かった。
 そして何より、辛く、長い転職活動を支えてくれたのは、バイクだった。これからも、一緒に色んな所へ行こう。






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