6月24日(土)晴れ 寝返り打って、救急車

 21日水曜深夜、私は彼の家に泊まり、彼の隣でスースー眠っていた。そして、寝返りを打ったことから、生まれて初めて救急車に乗ることになる。本当に、驚きである。
 ただの寝返りで、いったいどうして救急車を呼ぶ羽目になったかというと、(これは後に知ったのだが)“ロッキング”という、損傷した半月板が膝関節にひっかかり、膝を伸ばそうとすると激痛で、もうどうにも「うううう」、あまりの痛さとショックに体が小刻みに震えるぐらいの、超緊急事態が発生したからだ。

 ということで、寝返りを打った直後、そんな痛みが膝に走ったわけだが、“寝て起きたら治ってるかも”と思い、しばらく放っておこうと思った。なにせ深夜である。がしかし、いつもの“ねじれ”感とは明らかに異なる感覚と痛みに、上半身を起こし、膝を抱えずにはいられない。なんじゃこりゃあああと思いながら、自然に「ぅ、ぅぅーっ……」と痛みに耐える声が漏れる。そのただならぬ空気を察してか、彼が「ユキ、どうしたの?」と起き出す。
 寝返りを打ったら、膝が変になって、伸ばそうとすると超痛い。と、何だか“それってねじっただけじゃ……”と思われそうな虚しい説明をする。が、とにかく痛い。そんなわけで、救急車を呼ぶことになった。
 「本人の意識は、はっきりしていますから。サイレンは鳴らさないで来て下さい」と、冷静に電話をする彼の声が聞こえてくる。こんなときになんだが、彼はナレーター張りのいい声をしていると、そのとき思った。
 深夜ということもあり、救急車は電話をしてから10分程度で到着した。素晴らしく早い。そしてバタバタと救急隊員が部屋に入ってくる。勝手に救急隊員(医療関係者)=『医龍』の坂口憲ニとか小池撤平みたいにフレッシュでエネルギッシュな若手を想像していた私。「どうしました?」とベッドルームに到着したのは、チームドラゴンならぬ、チーム優しげなおじさん隊だった。痛みそっちのけで抱いていた淡い期待、ワクワク感よ……ってそれどころじゃない。

 彼が用紙に私の氏名や生年月日を書き込む間、私は隊員から細かく症状を聞かれる。といっても、たいした説明はできない。何と言っても、きっかけは寝返りである。説明するのも少々恥ずかしい。
 隊員たちのテキパキ丁寧な対応で、足を“く”の字に固定され、隊員と彼と肩を組み体を支えてもらいながら、外のエレベーターに向かう。右足でケンケンし、足が地につく度、左膝が痛くて「うぅううう」。エレベーターで一階へ降りると、その先はストレッチャーで安心、快適、楽チンだった。そして初めて救急車の中へ。
 救急車は思ったよりも、揺れる。天井が高い。何だかゴチャゴチャしている。こんな機会も滅多にないし、救急隊員とおしゃべりをとも思ったが、事態が事態なだけに皆、無言である。最後にちょこっと「救急車って、結構揺れるでしょ」、「ですねー。揺れますね」と話をしながら、病院に到着。

 深夜0時を過ぎた病院は、とても怖い。静かで、消毒薬の臭いが緊張感をあおる。取り急ぎ、レントゲン室へ。ストレッチャーを押してくれる隊員のおじさんに、「お仕事はシフト制なんですか?」と聞く。「三日に一度、24時間働くんです。一ヵ月に十日ですね」。24時間とは……労働基準法って、どうなっているんだろうか?
 レントゲン室には、相当眠そうな、若い男性の医者が待っていた。そして、レントゲンを撮るので、足を伸ばせという。「伸ばすんですか???? そそそれは痛くて無理です」とプルプル答えると、「痛いから(レントゲンを)撮るんですよ」と。カッチーン。結局、出来る限り足を伸ばそうとするものの、あまりの痛さに足が震え、涙が出る。ようやく三方向から撮り終え、溢れる涙を指で拭いていると、「硬いものしかなくてすみません」と、いつの間にか現れた白衣の天使が、確かに硬いペーパータオルを渡してくれた。眠そうな医者が無愛想だっただけに、天使の心遣いは胸にしみた。

 痛みのクライマックスはここからである。救急室へと戻り、先ほど撮ったレントゲン写真を眺める、今度は中年の医者。「骨はきれいですね。半月板かなあ……」と言いながら、“ロッキング”の説明をし、膝の様子を見る。しばらく膝をいじった後、「伸ばしてみますか。深呼吸しながら、ゆっくり伸ばしてみましょう」と言う。それができてりゃ、救急車なんて呼ばないよと思いながら、とにかく伸ばせるところまで伸ばすがやはり無理。
 「麻酔用意して」と、医者が白衣の天使に指示しながら、「関節に注射しますから」と私に言う。「はい」。ほー麻酔かと思い自分の膝を見ていると、「関節注射、大丈夫ですか?」と、やけに心配そうに天使が聞いてくる。「関節に注射するんですよね?」と言うと、「はい。見ていない方が……」と天使。「いや、見てても大丈夫だよ」と医者。どっち、どっち?
 ここは天使の言うとおりにしようと、顔を横に向ける。針が刺さったときは、おおこのチクッ程度なら大丈夫だと、思った。がしかし、その後、薬が注入されると、信じられないぐらいの痛みで「ぅぅぅうううううう痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!!」と、叫んでしまう。そして「うっうっうっ」と泣く。そして天使が、今度はティッシュをくれた。この日はよく泣いた。
 5分後、ゆっくりと医者が足を伸ばすと「おー痛くない」。素晴らしい。もうどうにでもしてくれ。すると、ある一定のところで、膝がはっきり、コキッとなり、真っ直ぐ伸びた。ようやく、元通りになった。そして、「やっぱりロッキングみたいだね」と、説明を受ける。

 それから、どでかいギブスをつけ、預かり金としてとりあえずの5,000円を払い、彼と一緒にタクシーで帰った。わずか2時間弱のイベントだったが、本当にびっくり、どっぷり疲れた。でも、その日、一番印象に残ったのは、またベッドに戻り、電気を消した後に隣から聞こえてきた、彼の深い、深い、安堵のため息。もしかしたら、この日一番緊張して疲れたのは、彼の方だったかもしれない。ありがとう。


6月13日(火)曇り 人生まだまだこれからです

 6月6日を最終出社日に、今月末で会社を退社する。大好きなエンタメ業界、映画会社の某部門マーケティング部という、自分にとって、これ以上望めない仕事を手放すのは、正直ちょっと惜しい。現在28歳で正社員二度目の会社だったが、新卒で入った会社を去るときよりも、同僚や会社から離れるのが残念で、寂しく思えた。何人もの人が、「元気になったら戻っておいで」と、優しい言葉をかけてくれた。その優しさは胸に染みるものの、日々の健康と激務の日々は、どう頑張っても両立し得ない。
 未練をタラタラ垂れ流していても仕方ないので、しばし休んで、また前に進もう。
 会社の人は皆優しく、上司(といってもまだ30代前半)までもが「ごめんね。もっと仕事のふり方とか、僕が気をつけていれば」と、送別会の別れ際に優しすぎる言葉をくれた。が、誰からもキツイ一言がなかったわけじゃない。
 最終出社日、某テレビ局へ御挨拶に行ったときのこと、担当の男性から「残業が三桁(=100時間を超す)いかないで辞めるとは、そりゃあ根性なしってことでしょう。負け犬ってやつですね。女の人はいいよなあ。俺なんてね、この間200時間超えたのよ。すごいでしょ」と言われた。私はそのとき、“うわー出た! 負け犬呼ばわりされた!! すごい、女性にこんな失礼なこと言う人、本当にいるんだ。そうか、女はいいよなあって、思うものなんだ……そうかー”と、妙に感心してしまった。すかさず同席していた私の上司が、「いや、実際うちは体調が原因で辞めていく女性は多いんです」「あぁそう? まーおたくは男女問わず、仕事ふりそうだもんね。うちは男女でちょっと違うけど」。
 というわけで、周りの人は色んなことを言うものだ。それでもやっぱり人の意見を聞くことは大事だと思う。そして周りには、素敵なことを言ってくれる友達もいる。
 前の会社で一緒だった友達に退社することを伝えると、彼は「俺は生きていくのに必要なものは“家族”と“健康”だと思うよ。この二つがあれば何でもできるし、この二つがなければ、他のものがあっても活かしきれないと思うよ。人生まだまだこれからだしねー」と言っていた。前からいいヤツだと思っていたけど、やっぱりいいヤツなんだよね、君は。
 そう、人生まだまだこれからです。


4月1日(土)晴れ まずは桜を楽しもう

 また桜の季節がやってきた。桜を見ると思い出すのが、丁度一年前の自分。念願の会社に転職が決まり、心踊っていたあの頃。働けることの喜びを毎朝かみしめ、色々な人への感謝の気持ちでいっぱいだった。清々しい気持ちで、ぽんぽん咲いた桜の花を見ては、笑顔をうかべていたあの頃。なんと清く・正しく・美しい。あ、涙が。で、今もそんな気持ちが続いている……わけないでしょー。そんな人がいたら、「嘘つきーー!」と言ってやりたいほど、私はひねくれてしまったとかもしれない。
 転職してから、濃厚な日々が続いた。仕事だけで一日が過ぎる平日と、その回復にあてる週末の繰り返し。職場は猛烈なスピードであらゆる物事が動き、人の出入りも激しかった。昨年秋は毎月送別会の嵐で、今や私を採用してくれた上司も、その上の上司も、もういない。まあ、社会人なんてそんなもんだ! クサってはいかん。
 誰もが転職を考えずにはいられない、キツイ職場ではあるけれど、だからこそ成長しなかった日はないと、断言できるところは素晴らしい。そして、「この人の下でなら、どんなキツイことがあっても頑張ろう」と思える、本当にデキる上司がいる。これは、相当ラッキーだと思う。
 でも、「『忙しい』という字は、心を亡くすと書くんだよ」と、彼に言われたことがある。心を亡くして、仕事に忙殺される人生は、確かにどうかと自分でも思う。体がこわれる前に、なんとかしなくちゃと、思うけれど。さあどうしようか……分からない。
 とにかく、まずは桜を楽しもう。今年も、新宿御苑の桜がきれいに咲いている。答えを出すのは、まだ先でいい。そして今日はエイプリルフールだ! ああ何かいたずらしたいー。





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