白人は販売員、マイノリティは裏方という従業員差別問題
写真:アバクロンビーウェブサイトより
 一度でも、海外のアバクロンビーアンドフィッチで買い物をしたことがある人は既に体験済みだと思いますが、お店にはモデルばりの若い販売員が揃っています。そのほぼ全員が白人。これも、アバクロンビーのブランド戦略の一つです(でした)。
 アバクロンビーは、ブランドを代表する美男美女のモデル販売員を揃えることで、ブランドが持つ魅力を最大限に体現させます。そんな販売員らが最大限に求められるのは、販売能力や接客能力ではなく、ブランドに相応しい外見、ブランドを代表するルックスです。アメリカではこのやり方に対し、猛烈な批判が相次ぎました。
 「ブランドのイメージにあった美しい白人以外は採用しない、という経営陣の姿勢にも大きな問題はあるが、文化的にマイナス影響を与えながら利益を得る、という企業の姿勢自体に問題があるのでは」、というのが一部の意見です。その一方で、アバクロンビーの(主にビジュアル)マーケティング戦略はサクセス・ストーリーとして語られることもあります。そのブランディングやアピール力は、評価に値すると。
 そもそも同ブランドには、二種類のパートタイム職があります。
 一つは上記に述べたように、店頭でモデルとして、前面で接客業に携わる販売員職。もう一つは、店内のプレゼンテーション(演出)に携わり、ブランドの基準を統一させるインパクトチーム。インパクトチームは、商品が途切れることなくお店に並ぶことをケアするのが主な仕事で、接客はしません。当然、彼らはモデルたちに比べ、人前に出る機会が少なくなります。このことからインパクトチームは、「外見や容姿が重視されるモデル販売員には不向きな人に対し、勤務機会を与えるためのポジションなのでは」と考える人もいるようです。どちらも大事な仕事ですが、前面に出るのが白人、マイノリティは裏方、というやり方にはやはり問題を感じます。

 この雇用差別問題は深刻で、白人ではないスタッフがブランドの見た目にそぐわないとして解雇され(もしくは採用されなかった)、そのことでA&F社は訴えられたこともあります。
 また、たとえマイノリティが採用されたとしても、やはり接客、販売に携わるのではなく、裏での活躍にまわされるケースが事実多いようです。そういったスタッフの多くは、アジア系アメリカ人、フィリピン人、メキシコ人、ラテン系アメリカ人であり、白人ではありません。
 具体的な訴訟ケースとして、『Gonzales対A&F社』が挙げられます。白人に、より望ましい仕事を与えることで、マイノリティ従業員を差別したとして、A&F社が提訴されたケースです。同社は、販売店では白人ばかりを雇い、マイノリティ従業員を粗末に扱い、広告から(人種的)多様性を排除したとして、激しく非難されました。
 A&F社を相手取った裁判、『Gonzalez対Abercrombie & Fitch社』の発端は、2003年6月、サンフランシスコ地裁に提訴された問題から始まりました。その内容は、A&F社が応募者や従業員(いずれも有色人種)に対して差別を行ったというもの。 A&F社はこのほかにも様々な団体から雇用差別、女性差別で訴えられており、
それらのケースが統合されて、最終的には一万人以上から成る集団訴訟へと発展しました。

 2005年12月、A&F社は膨大な和解金、4,000万ドル(約48億円)を支払うことに。 ちなみに、原告側が受け取る金額は、彼らが受けた被害の程度と、裁判遂行への貢献度に応じて、数百ドルから数千ドルの間で調整されています。和解金のほか、和解契約として、A&F社には新卒採用、人材雇用、仕事の割り当て、人材育成等において、様々な義務が課せられました。 例えば、Fraternit(男子学生の社交クラブ)やSorority(女子学生クラブ)もしくは特定の大学をターゲットにした採用行為の禁止。アバクロンビーアンドフィッチのマーケティング(宣伝)素材に、マイノリティを取り入れ人種的多様性を反映させること。採用権を持つすべての従業員に対し、雇用機会均等に関する研修を実施すること等々。
 これらの法令が順守されているかどうか、使命されたモニターが定期的にA&F社を審査し、報告を行っています。尚、この和解契約は少なくとも2009年までは有効だそうで、 その間にかかるモニター関連費や弁護士費はすべてA&F社の負担になります。この費用が1,000万ドルと予想されるため、この訴訟問題に関する同社の総負担額は5,000万ドル(約60億円)と見られています。
 現在同社のホームページには、「多様性とインクルージョンはわが社の成功の鍵です」といったメッセージが掲載されています。モデル(写真)には、白人以外を使うようにもなりました。その努力を認めて、今後の変化に期待したいですね。


『22』の使用をめぐって競合他社を告訴
 2003年8月23日の記事。A&F社が競合American Eagle Outfitters(以下AEO)を訴えました。
 その理由は、数字の『22』をAEOが同社の商品に使用したからだという。アバクロには商標権こそないものの、そのコモン・ロー上の権利はHollister Co.にあると主張。告訴の内容は、商標権の侵害、不当競争などなど。
 アバクロンビーの主張によると、『22』という数字はHollister Co.のキャップやTシャツ、ジャケットに多用されており、コモン・ローを取得していると言う。また、同ブランドのマーケティング・コンセプトによると、架空上ではあるが、Hollister Co.が設立されたのは1922年。確かに、『22』をあしらったHollister Co.の商品は多いようです(写真右参照)。
 というわけで、同年5月、Hollister Co.関係者は、AEOに対し『22』を使用したキャップやTシャツを販売すると、それがHollister Co.の商品であると消費者に混乱をきたすとして、書面を提出。AEO側は、告訴には全く根拠がないとコメントしました。
 これに対し、連邦裁判所は、既に三度も同じようなケース(A&F社が、AEOに対し、アバクロの類似商品を作らせないようにするケース)で、A&F社に不利な判決を下しています。二社の争いは、今に始まったことではないのです。
 1998年にはアバクロの人気色、スタイル、マーケティング手法をAEOが真似たとして、アバクロンビーがAEOを告訴。その際、裁判官は「多くの小売において一般的に行われていることに対し、保護を主張している」と述べました。アバクロンビーは、なんとかAEOを引き離そうと必死なようです。
 ちなみに、キャップやTシャツへの『22』の使用は、Bill Davis Racingという組織が既に登録済みだそう。はたしてアバクロンビーは同社に使用料を支払っているのでしょうか。
 逆に、アバクロンビーが訴えられたという話もあります。2005年1月、アディダスが自社のトレードマークであるスリー・ストライプ・ロゴを、アバクロンビーがそのクリスマス・カタログにおける最新ラインで使用したと、同社を訴えたのです。アメリカは訴訟大国。訴え、訴えられるのが人気者の常なのかもしれません。

マーガレット・ニコルのバッグとそっくり?
 ファッション業界ではよく聞く話ですが、アバクロンビーに「デザインを盗まれた」というニュースもあります。
 2005年6月のNY Timesに掲載されました。人気ハンドバッグショップ、マーガレット・ニコルで販売するニットを利用したバッグ($130)と、どうみてもそっくりなデザインのバッグが、アバクロから$30で発売されたのです。
 自社ホームページへのアクセスが急増したのを不思議に思ったデザイナーのNicole Dreyfussさんが、ファッション・チャットルームの履歴を確認したところ発覚。そこには、Nicoleがデザインしたケーブルニットのバッグをとても気に入って購入を迷っている人のコメントと、それに対し「悩む必要ないよ。これと同じものをアバクロンビーでは$30で買えるよ」とのコメントが。確かに、アバクロンビー冬のラインナップに、そのバッグはあったのです。
 その後、Nicoleは特許法の教授でもある母のRochelle Dreyfussに相談。母親は、商品の写真をイリノイ工科大学にあるChicago-Kent法律専門学校の知的財産法プログラムのディレクターである友人に送った。彼はNicoleにすぐさまアバクロンビーに停止命令の文書を送るよう助言。そして同社の弁護士は、二週間以内に財産を譲渡することに同意したという。
 無名デザイナーのデザインやアイデアを利用した模造品が出回るのは、特にここ最近日常茶飯事になりつつあるようです。それを主張してjも無駄、というのが一般的な中、主張した彼女は偉い。また、一般的には無視されがちなその主張に対し、応えたアバクロンビーには、少なからず誠意を感じないでもありません。ですが、パクりはパクり。残念。






2007 © YK

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